齊藤 明洋(さいとう あきひろ)さん
そばと酒 あき風 オーナー
島のあったかさを、そっと一杯に。
やさしい香りとともに、ゆったりとした時間が流れる「そばと酒 あき風」。島の暮らしの中で、そばを通して人とのつながりを大切にしてきた齊藤さんにお話を伺ってきました。
■これまでの経歴を教えてください。
山口県の宇部市に生まれ、東京の大学を卒業してからは普通にサラリーマンをしていました。最初は薬品会社に勤めて、その後は映像関連のIT企業の営業をしていました。10年前に父が亡くなったことがきっかけで、自分の人生を改めて見つめ直しました。父は生前海外に拠点を持っていました。父の仕事や生活環境を見ていた私は「自分も海外の第一線で経験をしてみたい」と強く感じるようになり、サラリーマンを辞め、語学留学を決意しました。まずはフィリピンで英語を学び、その後オーストラリアで2年間ワーキングホリデーを経験しました。現地では、寿司屋や定食屋で働きながら、飲食の基礎や接客の楽しさを学びました。オーストラリアでの生活を経て、日本に戻るときに自然が豊かで海の近くに住みたいと考え、30歳の頃に沖縄本島へ移住し居酒屋で働き始めました。その時、居酒屋の常連のオジィに「宮古島って知ってるか?」と声をかけられ、興味を持ち、島を訪れました。最初は島のことを全く知らずに来たのですが、初めて見た宮古島は自然豊かで海も美しく、一目で心を奪われ、すぐに移住を決意しました。最初は伊良部島でお店の運営を手伝いながら、地域の方々とのつながりを深め、島の暮らしに少しずつ馴染んでいきました。その後、宮古島で飲食の仕事を続け、お酒の知識を学び、料理や接客に対する考え方の基盤を作りました。さらに、自分のスキルをもっと広げたいと思い、北海道のイタリアンレストランで1年間働くことに。ここでは全く違う文化や料理のスタイルに触れ、自分の視野や料理の幅をさらに広げる貴重な経験が出来ました。いつか自分のお店を持ちたいという思いは常に胸の中にありましたが、これまでの飲食での経験、お客さんに「美味しい!」と喜んでもらえる瞬間を繰り返す中で、自分でもできるという自信に繋がっていきました。そんな時、宮古島の知人から「島で出店しないか?」と声をかけていただき、これまでの経験をすべて生かせるタイミングだと感じ、今のお店をオープンすることになりました。
■お店のこだわりを教えてください。
スープ作りには特にこだわりがあります。ヤギ、牛、豚、魚などこれまで経験した様々な出汁の取り方を生かして、麺によく絡むまろやかで深みのある味を追及しています。白濁しているけれど、まろやかであっさりしていて、旨味がしっかり感じられるスープに仕上げるため、豚骨や鰹、昆布のバランスにも細かく気を配っています。お客さんの好みに合わせて、限定スープを作ることもあり、試行錯誤を重ねながら進化を続けています。
店内は広々としていて、テラス席は島の自然を感じられる開放的な空間になっています。大きなガジュマルの木がそばにあり、その木陰で風を感じながら食事を楽しむ時間は、ここでしか味わえない心地よさがあります。地元の人はもちろん、観光で訪れた方にも、ほっと一息つける場所になれば嬉しいですね。そして、お店の名前「あき風」は自分の名前「あき」と、穏やかで心地よい風をイメージして名付けました。訪れた人がリラックスして過ごせるような、そんな優しい時間が流れる場所にしたいと思っています。
■これからの展開について
これからは食事を楽しむだけの場所ではなく、人がつながり、何か生まれる空間にしていきたいと考えています。食事を楽しみながら音楽ライヴを開いたり、ペットを連れてテラスで食事ができたらと色んな可能性を広げていけたらと思っています。料理の面では、季節ごとの素材を使った限定メニューや新しいスープにもチャレンジしていきたいと思っています。日々の中で、ゆったり楽しんでもらえるような、通うたびに新しい発見があるお店を目指しています。
そして何より、宮古島というこの場所で自然と人の温かさを感じながら、自分らしいペースで長く続けていけるお店にしたいと思っています。あき風のように穏やかで心地よい時間が流れる場所をこれからも大切に育てていきたいです。
「そばと酒 あき風」のスープや料理からは、齊藤さんの丁寧な仕事ぶりとこだわりがしっかりと伝わってきました。これからも齊藤さんならではの工夫や新しい試みで、あき風がさらに魅力的に広がっていくのが楽しみです。詳しくは本誌57ページをご覧ください。


